道場の理念

道場訓十箇条

野間恒 撰

  1. 一、

    道場に出入の際は、おもむろに低頭敬礼すべし。

  2. 一、

    出入には見苦しからぬ服装をなし、和服の場合は袴を着すべし。

  3. 一、

    敬虔の念を保ち、姿勢の端正を持すべし。

  4. 一、

    静粛謹直にして、かりそめにも高談戯笑、拍手声援等すべからず。

  5. 一、

    なるべく飲食後、相当の時間を置きて後稽古すべし。

  6. 一、

    酒気ありては、稽古は勿論、道場に入るべからず。

  7. 一、

    刀は己が魂なり、防具は甲冑なり、法式の如くことに鄭重に扱うべし。

  8. 一、

    道場内は、旦暮洒掃して清浄を保つべし。

  9. 一、

    他流を批判し、相互に技術を誹謗せざること。

  10. 一、

    剣を学ぶ者は、短気我儘を戒め、争心あるべからず。 心常に和平なるを要す。

持田盛二先生遺訓

剣道は五十歳までは基礎を一所懸命勉強して、自分のものにしなくてはならない。

普通基礎というと、初心者のうちに修得してしまったと思っているが、これは大変な間違いであって、そのため基礎を頭の中にしまい込んだままの人が非常に多い。

私は剣道の基礎を体で覚えるのに五十年かかった。

私の剣道は五十を過ぎてから本当の修行に入った。

心で剣道しようとしたからである。

六十歳になると足腰が弱くなる。この弱さを補うのは心である。

心を働かして弱点を強くするように努めた。

七十歳になると身体全体が弱くなる。

こんどは心を動かさない修行をした。

心が動かなくなれば、相手の心がこちらの鏡に映ってくる。

心を静かに動かされないよう努めた。

八十歳になると心は動かなくなった。

だが時々雑念が入る。

心の中に雑念を入れないように修行している。

持田盛二氏の写真

持田盛二 略歴

1885年(明治18年)1月26日~1974年(昭和49年)2月9日

剣道範士十段。号、邦良。「昭和の剣聖」と称される剣道家。群馬県勢多郡下川淵村(現在の群馬県前橋市)出身。

法神流免許皆伝の父善作から剣の手ほどきを受けた後、17歳で上京。中山博道の有信館、高野佐三郎の明信館で修行。大日本武徳会武術教員養成所を修了し、京都府警察部剣道教師、千葉県警察部剣道師範、東京高等師範学校講師、朝鮮総督府警務局剣道師範を歴任。

朝鮮総督府在職中の1929年(昭和4年)に御大礼記念武道大会剣道指定選士の部(天覧試合)で優勝したことから、野間清治に請われて野間道場師範に就任。野間恒・森寅雄ほか多くの剣士を世に送り出した。

座右の銘は「釼徳正世(剣徳世を正す)」。